レストランウシマル増改築

Restaurant Ushimaru extension&renovation

 サイドバイサイドによる、木造一軒家レストランの増築+リフォーム

 千葉県山武市の築20年のイタリアンレストランの増改築を行った。
 予約制であるため食事の定刻まで遠方からのゲストが待つラウンジ、コロナ禍を経てアイス室や加工室などのテイクアウト食品をつくるための調理場の追加が求められた他、既存のダイニングスペースに自然光をいれることと、洋風に作られた既存の建物に対しどのような増築が可能かということが重要な課題であった。地元を大切にしてきた方々に敬意を払い、自然と畑の広がる土地の魅力や既存の空間の良いところを活かした増改築にしたいと考えた。
 既存のダイニングスペースは、自然光は入りづらいものの、45度勾配の屋根裏まで届く高天井と露出した梁がリズムを生む、落ち着いた空間だった。そこで、同スケール同勾配の大屋根を既存棟の東側隣に配し、斜めの高天井の空間に大梁が露出する開放的なラウンジの増築を設計した。大屋根の端部は手が届く高さまで下ろし、弧を描く端部でエントランスを暗示するとともに内外の視線の調整を行った。ラウンジ内部にいると駐車場への視線は大屋根で緩やかに遮られ、自然に、東側の菜園と奥の森や畑へ意識が向かうようにした。そしてこの明るいラウンジと家形の開口で繋ぐことで、既存のダイニングスペースまで自然光と開放感を導いた。
 ゲストとサービスのゾーニング境界にはサービスウォールと呼ぶ長い木面の機能的な壁を設けて新旧の空間を連続させた。ダイニングとラウンジの間には大型折れ戸とカーテンを設け、食事の定刻に開くことでゲストへの演出を可能にもした。サービスウォールに埋め込まれた厨房のカウンターは、機能的であると同時にシェフの調理が客の視線を集める舞台でもある。また、地元から集められたアイテム、例えば地元メーカーの手作りのガラスのパーツや、山武杉で作られた建具などは、固有の土地や人のもつ魅力を伝えてくれる。
 防風林や田畑と点在する住宅で構成されている山武の風景は、土地と人の交わりを現すものだ。そこに既存の洋瓦屋根と並ぶ風に負けない明るい金属の大屋根が加わった。今回の増改築により次代へ伝えられる風土の一端を担うことができたなら本望である。

→→改修の前後比較はこちらをクリックして下さい

所 在 地:千葉県山武市
用   途:レストラン
延 べ 面 積:約270㎡
竣 工 年:2023年
共同設計者:意匠_Axel Vansteenkiste Architecture、構造_たにおか設計社、電気設備_大瀧設備事務所、機械設備_TH PLAN
施 工 者:秋葉建設
ガラス製作:菅原工芸硝子
写 真 撮 影:Takuya Seki
キーワード:飲食店、一軒家、木造、増築、リノベーション、地産地消

Restaurant Ushimaru Extension, designed by sidebyside architects

写真中央の建物がレストラン・ウシマル。千葉県の北西部・山武市にある。田や畑、キノコや山菜の採れる山やぷりぷりの牡蠣が採れる海に囲まれ、豊かな自然と共に育まれた美食のレストランの建物は、改修計画を始めた際に築20年を迎えるところだった。ゲストは、定刻にスタートするランチやディナーめがけて日本全国や外国から訪れるが、遠方から車で来ると、どうしても時間の余剰が発生する。この待ち時間をゆったりとすごし、地域の自然を感じてもらうために、オーナーはラウンジの増築を希望していた。また、この計画時期にちょうどコロナ禍が訪れ、テイクアウトできるグルメへの要望の高まりをうけて、加工室やアイスクリーム製造室、それらの販売カウンターが増築項目に追加された。

レストランウシマル ラウンジ
サイドバイサイド一級建築士事務所
Restaurant Ushimaru Lounge,  designed by side by side architects

ラウンジは、自然光あふれる空間とし、レストランの菜園や後ろの森が自然と目に入るように設計した。開口が連続的に見えるよう、高い勾配天井をつくる屋根下部は丸い鉄骨柱で支えている。構造的には、大屋根の広がりは、屋根面内をかためることで両妻面でおさえ、軒先側に配したこれらφ=159mmの鉄骨柱2本で鉛直および水平荷重を支持している。上部で現しにしている大梁はスギ材。
MarniのRoundishの紺色は空間に彩を添え、左の木壁にある丸いのぞき窓のついた扉からは、ワインの並ぶ倉庫に入ることができる。
菜園で取れたハーブティーが振る舞われたり、ゲストはここで、ランチやディナーの開始までリラックスして過ごせる。

レストランウシマル 前景
サイドバイサイド一級建築士事務所

築20年を迎えたレストランの旧棟は向かって左の洋風の建物。増築部は向かって右の金属屋根の建物。増築棟の屋根下端のカーブは、デザイン上のアクセントというだけではなく、外と内部空間との視線調整の役割をになっている。ゲスト用の駐車場からは増築棟のラウンジ内部の様子がわかり、安心感をもって建物にはいることができるが、増築棟のラウンジ内部には駐車場の雰囲気が伝わることはない。エントランスは、もともと、レストラン名の掲げられたポーチの所にあったが、エントランス扉を丸窓のある木の壁に置き換え、壁の前を通りすぎて右側の増築棟から内部にアクセスできるようにした。

Restaurant Ushimaru Extension, designed by sidebyside architects
Restaurant Ushimaru Extension, designed by sidebyside architects

レストランの菜園側からみた、増築棟の側面。勾配屋根だけでなく外壁にも耐久性の高いガルバリウムを使用している。ゲストが使用する側、向かって左のラウンジのあるスペースの勾配屋根は、もとのレストラン棟の屋根と同じ10寸勾配。屋根勾配と直行するようにガルバリウムの外壁向きを変えた。スタッフが使用する側、向かって右のアイス室や加工室のある陸屋根のスペースは、調理機器設置に必要な寸法を保ちつつ、最低限のボリュームになるよう設計した。

Restaurant Ushimaru Extension, designed by sidebyside architects

大きな屋根が印象的な増築棟。内部の開放的なラウンジの空間がアプローチからよく見えるようにし、ゲストが心理的にも中に入りやすいように演出している。
エントランスは、もともと、レストラン名の掲げられたポーチの扉だったが、その扉を丸窓のある木の壁に置き換え、壁の前を通りすぎて右側の増築棟から内部にアクセスできるようにした。ガラスの扉の奥にはもう一枚木の扉があり、ガラスのハンドルを押してラウンジへと入る。
屋根のガルバリウムの銀色、室内壁の木の色、そして青空と周囲の自然が気持ちの良いコントラストをなしている。

レストランウシマルの屋根
A large roof,  Restaurant Ushimaru extension, designed by sidebyside architects
レストランウシマルの屋根のディテール
detail of the roof, Restaurant Ushimaru extension, designed by sidebyside architects

増築棟の大屋根の先端のディテール。大屋根を支える架構はラウンジから木目がしっかり見えるよう、透明な塗装に留めた。ガルバリウム先端はキャップなどを使わずに職人がひとつひとつ丹念に折り曲げ、繊細で軽やかに見える屋根をつくってくれた。

Restaurant Ushimaru Extension, designed by sidebyside architects

エントランスの風除室の先にある扉。地元の山武杉で作っていただいた。
ガラスのドアハンドルは、スガハラガラスさんによるオーダーメイド。食事を終えたゲストがデザートを食べるかのようにガラスに触れて帰宅するというシェフのアイデアと、胃袋のようなハートのような形にというオーナーのアイデアをもとに、スガハラガラスの職人さんがガラスに命を吹き込むかのようにして整形してくれた。訪れる人だれもが触れるドアハンドルの気泡や柔らかな形には、山武の風景が映りこんでいる。

レストランウシマルのラウンジ夕景 サイドバイサイド一級建築士事務所
Restraurant Ushimaru Lounge's cozy night view

夕方になると、田畑も多い周囲は暗く沈んでくるが、温かみのあるラウンジの光が訪れる人に安心感を与えてくれる。

Restaurant Ushimaru Extension, designed by sidebyside architects

洋風の既存レストラン棟と、私たちのデザインによる新しいガルバリウム外装のラウンジ棟は、違う素材とスタイルをもつが、大屋根の角度や建物のスケール感という共通点により、あらたな調和のとれた外観をつくりだしている。

Restaurant Ushimaru's night interior view, designed by side by side architects

増築棟のラウンジは、家形の開口を通じてダイニングスペースと連続している。二つの空間を貫くように設けたオークの天然木の壁(サービスウォール)は、ゲストスペースとスタッフスペースの境界を可視化したものでもある。サービスウォールには、ワインの入った倉庫入口や、会計カウンター、厨房のみえる開口やカウンター、食器棚、ワインクーラー棚を埋め込み、シンプルな素材でスタッフの動きが印象的に見えるようにデザインした。
壁には、ガラスのウォールライトをつけている。これは、ドアハンドルと同じくスガハラガラスさんによるオーダーメイドで、レストランウシマルで使用しているガラスのデザート皿をイメージして気泡入りのガラスで制作していただいた、造り付けの照明だ。

ディナーやランチの開始前は、ガラスのはまった折れ戸とカーテンによってダイニングと仕切られた状態でゲストはラウンジに通されるため、ゲストがくつろいでいるすぐ隣の空間でスタッフは準備を進めることができる。ディナーとランチの開始時間になると、劇場の扉が開くかのようにこれらの仕切りが開かれ、ゲストはテーブルにつくことができる。
構造上は、折れ戸支持材は既存建物の家型の合掌に生じるスラストをとめる陸梁を兼ねている。

Restaurant Ushimaru Extension, designed by sidebyside architects

サービスウォールに埋め込まれた厨房カウンター。白いコーリアンとボックス状の銅板でできたカウンターはシンプルに見えるが、厨房側には、炭台やその他の厨房器具が仕込まれ機能的に使用できるようになっている。炭台の炭の火力を調整するための風量調整器もカウンター内に仕込んである。普段は厨房奥にいるシェフが焼き物をするときだけ登場する舞台である。

<気泡入り料理皿と、壁面照明やドアハンドルのアップ写真>以前からレストラン・ウシマルで使われる食器は全てスガハラガラスさんの器だった。中でも特にウシマルのために作ってもらったのがこの気泡入りの皿である。そこで今回の増築リニューアルに際し、この気泡を活かしたガラスの壁面照明とドアノブを製作いただいた次第である。気泡の大きさや密度によって、内側で光る照明の見え方が違ってくるため、試作を重ねていただいて現在の大きさや密度にたどり着いた。

オーナーさんたってのご希望で、女子トイレはゆったりと使えるレイアウトとデザインに改修した。コーリアンのカウンターと円鏡裏に仕込んだ間接照明が、柔らかかつ華やかな雰囲気を加えている。

Restaurant Ushimaru Extension, designed by sidebyside architects

レストラン・ウシマルを近隣の畑ごしに見る。西洋風の部分は既存のレストラン棟で、増築したのはその手前にある金属の外装の建物部分。
畑や自然に恵まれてはいるが、電柱もあり、周囲は一般的な日本の郊外の風景である。実は強い風が吹き付ける場所でもあり、建物左手に見える仕立てられた防風林が建物を守ってくれている。

改修の前後比較 1

左側の写真は改修前のレストラン・ウシマルのダイニングスペース。左側が厨房で、右側にゲスト用のテーブル、右奥の壁の出っ張ったところが入口の風除室で、正面の壁のむこうは外。右側の写真が、改修後のレストラン・ウシマルのダイニングスペース。もともとの風除室を撤去して入口は移動、隣に増築したラウンジスペースにむけて、正面の壁に家形の開口を開け、既存のダイニングと増築したラウンジをつなぎました。自然の光が豊かな増築棟のラウンジと繋ぐことで、元々あった吹抜け空間の良さを活かしつつ、庭の緑が見通せ光あふれるダイニングへと生まれ変わりました。

↓改修前の客席

↓元々の良さを活かし、緑と繋がった増築後の客席

改修の前後比較 Ⅱ

左側の写真が改修前のダイニングスペースからみた厨房と厨房カウンター周辺。改修前は親しみやすい雰囲気はあったものの、様々なツールが一度に目に入ってしまい、シェフの手元には視線が集まりにくい状態。右側の写真が改修後のダイニングスペースからみた厨房と厨房カウンター周辺(営業時間外の写真のため厨房内が暗く写っている)。オークの天然木の壁(サービスウォール)に銅板ボックス入りのコーリアン・カウンターを埋め込むように配置することで、シェフとスタッフの動きにゲストの目線が自然と集まる、舞台のような空間にデザインした。改修前にはカウンター下などに布をかけて隠していたカトラリーなどには専用の収納引き出しを、ワインクーラーやワイングラスには収納する棚を、サービスウォールに一体化させてつくることで、全く悪目立ちせずかつ機能的にサーブができるようにした。

↓改修前

↓改修後 統一感のある天然木の壁に、銅とコーリアンで視線を集めるカウンター

改修の前後比較 3

左側の写真が改修前のダイニングスペースからみた個室(正面左)とトイレ入口(正面右)。個室は個室予約でないお客様の場合に一般席と連続的に使用できるようにしたい、トイレは各個室前に踏み込みを設けたいというオーナーからの要望があった。右側の写真が改修前のダイニングスペースからみた個室(正面左)とトイレ入口(正面右)。個室は、一般客席と繋げても使えるように入口の幅を広げ、3枚引き戸に。このために柱を撤去する必要があり、その構造的補強も当然行っている。トイレ入口は、気にならないように壁と同化させたつくりにし、扉引手も造作で制作してもらった。窓の日除として、以前は枠外にロールブラインドを仕込んでいたが、今回の改修で全て木の温もり、そしてまわりの緑と調和する窓枠内に入る白い木製ブラインドに入れ替えた。

↓改修前 客席と完全別室の奥の個室

↓改修後 引き戸で客席と個室を一体化も可能に。奥には緑も