ウシマル・レストランは、千葉の北西部・山武市にある。刻々と移ろう大地と海の恵みを享受するように、シェフはその時で一番の材料を集め、日ごとにめくるめく変わる料理を、同市に工房のあるスガハラガラスの器でふるまう。ここでの食事の体験は、自然を味わうショーのようだ。
ヨーロッパ風の既存建物は内部空間が閉鎖的で、この自然豊かな料理の即興性を活かせるものではなかった。また、早い時間にレストランに到着する遠方からの客のためのウェイティングスペースが必要であった。
私たちは、既存建物への従属的な増築ではなく、新旧双方が呼応するような増築の方法を考えた。既存建物南側のダイニングスペースは、自然光は入りづらいものの、45度勾配の屋根裏まで届く高天井と、露出した梁がリズムを生む心地よい空間だった。そこで、同勾配の大屋根を増築部南側立面に配し、同じく露出した大梁や鉄骨丸柱で支え、大開口のあるラウンジスペースを提案した。
明るい銀色のガルバリウムの屋根は、空を写し景観に溶け込む。既存建物に向けて描かれる曲線の上端は、入口を示している。ラウンジの東・南側の連続した開口面からは、地面近くまで下がる大屋根の端部で駐車場への視線を避けつつ、庭と畑への眺望が屋内へ入りこむ。新旧両棟間には、既存建物構造に配慮しつつ極力高さのある開口を設け、解放感を内部全体に伸張させる。磨きモルタルが印象付ける抽象的な増築棟ラウンジと、より落ち着いた雰囲気のダイニングは、サービスウォールと呼ばれる木面の長い壁で連続させた。サービスウォールに埋め込まれた厨房とダイニングをつなぐ大きなカウンターと炭台の銅板は、機能的であると同時にショーの中心として客の視線を集める舞台となる。新しい開口から明るい自然光が入るダイニングで、客は山武の自然をまるごと味わう。
地元から集められたアイテム、例えば地元材の山武杉で作られた玄関扉や、スガハラガラスの協力で特別に制作されたガラスの繊細な取っ手や壁面照明などは、居心地のよさや楽しさを向上させている。
ひとまとまりの全体像を保ちつつ、個々のユニークさを許容する、このレストランのありかたそのものが空間となって現れた。
所 在 地:千葉県山武市
用 途:レストラン
延 べ 面 積:約270㎡
竣 工 年:2023年
共同設計者:意匠_Axel Vansteenkiste Architecture、構造_たにおか設計社、電気設備_大瀧設備事務所、機械設備_TH PLAN
施 工 者:秋葉建設
ガラス製作:菅原工芸硝子
写 真 撮 影:Takuya Seki
キーワード:飲食店、一軒家、木造、増築、リノベーション、地産地消